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序章 ―激動―
2008-07-22 Tue 23:06
2008/11/14 編集

2008/12/05 三点リードと全ダッシュの編集、句読点の調整

登場人物紹介

長いですけど、良かったら


 どうしたものかな、と思い悩んでいた。

今、俺たちはある島に向けて航海中なのだが、

今年は異常気象らしく海は荒れ、

大雨に晒され非常についていない。

その為、当初の到着予定より大幅に遅れているのだ。

オマケに俺だけが船酔いになっている。

さすがに出発の頃よりは大分マシになったが……

まだ気持ち悪いので気を紛らわそうと思うのだが、

眠れないほどの体調で何をしたものかな、と。

結局何でこんなことになってるのか、状況を整理してみることにした。


 船の名はホワイト・パール。食料や兵等の輸送船だ。

抗争中の島への航海なので武装もしてはいるようだがそれらは殆ど飾り。

とはいえ、その島での各国間の国境線のようなものが

沢山の血によって引かれており、

それぞれの国の縄張りからなら他国からの攻撃を受けにくい状況だ。

海賊の類には通じない話だが、奴らが狙うとしたら帰りの船だろうから、

こちらも取りあえず今は関係がない。

目指す島は住民の呼び方のまま、「精霊の島」と呼ばれている。

しかし別に精霊が住んでいるわけではなく、

取り立てて美しいという島でもない。

それでもいまだにそう呼ばれるのは偏に島の神話によるものだろう。

細かい下りは知らないが、何でも昔、島は今より遥かに住み辛い所で、

土地は枯れており海は潮流が酷く、

入るのも出るのも難しい孤島だったそうだ。

が、ある時その痩せた島に天上と地底の神々が立ち寄り、

その時僅かにいた住民たちは僅かな蓄えを使って歓待した。

住人の信仰と献身にいたく感激した神々は、

地・水・火・風を司る精霊に島に留まり、

生き物の住みやすい島にするよう命じた。

結果島は驚くほど自然豊かになり、天災も減り住みやすくなった。

また海も穏やかになり、他国との交流も可能となった。

ところが豊かになって欲が出たのか、

使命を果たし神々の元へ帰ろうとした精霊たちを、

島の洞窟に閉じ込めてしまう。

これに怒った精霊たちは地震を起こし、洞窟入り口を塞ぐと、

様々な天変地異を起こした。

あっという間に枯れゆく大地、荒れゆく海、湧いてくる魔物。

住人たちは震え上がった。

結局初心の「献身と信仰」を思い出したのか、住民同士は支えあい、

洞窟には祠を建てて祀った。

それでも治まらない天災に、しかし必死に身を寄せ合い、

真摯に祈り続けた。

そして3年の月日がたった時、洞窟から轟音と揺れが響き、

その後今までの事が嘘のように天災はやみ、

ゆっくりと住みやすい状態へと戻っていった。

きっと祈りが通じたのだと、人々は喜び精霊に感謝した。

かくして精霊信仰の篤い島が誕生した。

とまぁそういう話らしい。


 しかし……

何だってこう強大な力を持っている方々は大雑把なのか?

図に乗るほうが悪いが、

強大な力で半端な善行をしなければ起こらなかった話だろうに。

まぁ神話に難癖つけても始まらない。

ともあれ、重要なのはここからだ。


 2年ほど前に起こった地震で島の件の洞窟の祠が崩れ、

入り口が現れたらしい、埋もれたはずの入り口が。

祟りを恐れて住民は近寄らなかったが、

魔石がある可能性があった為、交易国の一つが密かに調査隊を放った。

結局その隊は帰らなかったようだが、

代わりに魔物の目撃情報が相次いだ。


 理由は解っていないが、魔物あるところ魔石あり。

と言われるほど魔石とは密接な関係のある魔物が目撃されたことで、

各国はこぞって派兵している。


魔石とは最近発見されたマナを含んだ鉱石の事。

マナは……色んな事が出来る力。

しかし操り方が解らない力。

その位しか解っていない。

現在各国が躍起になって調査している状態だ。

若干解っていることは、

生まれつきマナをある程度使える人間がいることと、

その人間も魔石があってようやく、

火を起こしたり等の魔法と呼ばれる行為が出来るということ。

魔法が使えるかは魔石に触れてみて初めて解る。

また魔法は一人一人違う性質を持つ、

似た能力を持つこともあるようだが、やはり厳密には別物だ。

また、魔力者は身体能力が向上することも確認されている。

腕力などの運動能力、病気や怪我などからの回復能力。


 魔物に関してもやはり殆ど何も解っていない状態だ、

普通に生息しているところも多いが、

そういうところでは余り魔石は見つからない。

魔石が見つかるのは、今回のように急に湧いた場合で、

付近の鉱脈から発見されることが多い。

今回も祠から既に発見されている。

魔物が人に積極的に害をなしたり

魔石採取の邪魔になる(ならなかった事などないが)

場合は討伐されるが、

それ以外は余程の理由がないかぎり放置される。

鉱脈がない場合、大抵は何故か1~2年で姿を消すからだ。

動物によく似た外見のものが多いが、

身体能力が非常に優れており、一般人では歯が立たない。

その殆どは非常に凶暴で、知性も余りない。

罠にかけれそうな気もするが、中々うまく行かないらしい。

現在は動物の魔力持ちなんだろう、と推測されている。

動物は凶暴化し、姿も変化するのに、

人類がそうならないの事も現在調査中だ。

単純に身体能力だけが飛躍的に向上したように見えるので、

嫉妬の対象になることもあるが、

何かを得たら、何かを失うのが世の理。

今は解らないだけで、きっと大きなモノを失っているに違いない。

得たモノに見合うだけのモノをな。


 魔石の調査と回収を行うのは通常、

その国家に属する魔力者達であり、

この船も船員以外は殆どがそうした者たちである。

先の調査で減った分の補充兵というわけだ。

急場だった為、その大半は錬度の低い新米兵か貴族兵。

戦力として不安が残る為と、初陣の貴族の護衛を兼ねて、

今回は例外的に国家に属さない、所謂傭兵も調査隊に属している。


 そんな訳で、危ないが見入りはいい仕事にありついた傭兵というのが、

俺と――

ノック無しでドアが開き、同時に声がした。

「アルツ、夕食の時間だけど……大丈夫?食べれそう?」

アルツというのは俺のことだ。声をかけてきた男はニール、

確か貴族の息子の筈だが人の部屋(こいつとの相部屋だが)

にノックして入る習慣はない。

童顔でとがり耳。

センターで分けた髪は首の辺りで跳ねている。

厳密には人間ではないのだろうが確認したことが無い。

気遣いを忘れない我らのリーダー。

マナーも守れれば完璧なのだが。

吐き気を堪えて声を出す、

「……食欲がない」

「無理してでも食べた方がいいんじゃない?

明日には着く予定っていってもどうなるかは解らないんだしさ」

もっともな意見だ。

ここ2、3日マトモに食事をしていないので体力も落ちている。

体調がマシな内に何か食べておくべきか。

「そうだな……そうする。」

具と味の無いあのスープくらいなら食べれるだろう。

吐き気だけベッドに置いて行けたらどんなに楽だろうか、

そんなことを思いつつ歩き出した。


 食堂に着くなり、

「顔色、少しはマシになったみたいね、よかったわ」

声をかけてきたのはフィアナ。

メンバー中最も一般的な常識と良識と金銭感覚を持ち合わせている彼女は、

心配そうにこちらを見ている。

「おかげ様で」

軽く答えて向かいに座る。

テーブルに片肘、椅子に片膝をついて(育ちが知れるぞ)

こちらを見ていた隣の奴が口を開く。

「今更だけどな、明日には着くって頃になって治っても遅ぇーんだよ」

この口の悪い奴の名はカリン。

目つきも悪く、身長が1番高く力もあり、

口調も雑なためよく性別を間違えられるが女性だ。

ニール、俺、フィアナ、カリン。この4人でパーティを組んでいる。

「1度なってみるといい……、そんな軽口叩けなくなるだろうからな」

「あいにく、そんなヤワじゃねぇんだよ」

なにか言い返そうかと思ったが、気力がなかったので黙殺することにする。

「まぁまぁ、一応病人なんだからさぁ、加減したげなよカリン」

ジャンケンに負け、全員の分の食事を持ってきたニールがそう言って席に着く。

ここ2、3日ではマシな食事が出たようだが、余り関係なかった。

元々食べること自体余り好きではないため、

無理やり流し込んで食事を終えた。

当然だが、味もなにも解らなかった。



 夕食後しばらくたった夜更けに、「島が見えるか見に行こう」という、

ニールの良く言えば無邪気な意見によりデッキに出る。

当然といえば当然だが、俺たち以外は見張りしかいない。

見渡す限りの昏い海、飲まれてしまいそうだ。

体調が悪いと考え方も悪くなるのだろうか?

ニールは島のある方角を見ている……

訳ではなく、デッキをあちこち見て回っている。

順調に行けば明日見納めになる船からの景色を堪能してる、らしい。

明日はココは込むだろうと思って今来たんだろう。

イイ年して……子供かオマエは。

カリンとフィアナは何やら話し込んでる。

時折笑い声が響いてくるが内容までは解らない。

しばらく海を眺めつつ夜風に当たっていたが、

いいかげんシンドイので部屋に戻るよう

皆を促そうとしたところでニールの声がした。

「ねぇ……あれ、何?」

皆でニールの指した方を見る、この船の進行方向、島のある方角だ。

「何って言われてもなぁ、なんも見えねぇーよ」

「どうかしたの?」

「夜目が効かないんだねぇ~、二人とも。何か大きな影があるんだけどさ」

「船かなんかじゃねぇのか?」

「分かんない、アルツは何か分かる?僕より目、いいよね?」

俺は答えず、ただ立ち尽くしていた。

「おいおい、マヌケ面でシカトしてんじゃねーよ」

「船酔いが悪化したのかしら?」

「……オルクだ……マズイぞ、かなり」

ようやく口を開けた。

全身の一部しか見えなかったが間違いなくこの船より大きい。

「それ、何?」

尋ねるニールに視線も向けずに答える。

「魚だ、鯨を餌に出来るくらい大きな。

最悪の場合だが、餌又は玩具扱いされる怖れがある」

カリンとフィアナが口を開く。

「んだぁ?そりゃあ?」

「・・・そうなった場合はどうなるの?」

一瞬躊躇ったが予想を端的に述べる。

「おそらく3分と持たずにこの船は海の藻屑だ、乗員ごとな」

「何言ってんだ?」

「じょ、冗談でしょ?そんなモンスター聞いたことないわよ」

俺だって今まで忘れていた、

目撃例が僅かにあるだけの幻獣なのだから。

その僅かな目撃もここから遥か遠い国での話だ、

なんだってこんなところにいるのか解らない。

いや、待て、後で考えればいい。

取り合えず……こいつ等に信じて貰わないと。

「こんな冗談は言わないし、俺の夢か幻覚ではないか、

と思うだろうが確かにいるんだ」

真剣な面持ちでそう述べた、一拍の間を置いてカリンが尋ねてくる。

「ブッ倒せねぇのか?」

「馬鹿なッ!!不可能だ、絶対に!!」

即答した。

こいつ等がアレを見れれば……

こんなもどかしい思いをしなくともすむのに……

「そう言われても……見えないし……」

「疑う訳じゃねぇが、ホントにいんのか?」

しばらく考え込んでいたニールが口を開く。

「ホントだとしてさぁ……どうする?

まぁ、逃げるしかないと思うんだけどさ」

そうだ、逃げなくては。

考えつかなかった、怯えるのに精一杯で。

だが船上から何処へ?思った時にはカリンが喋っていた。

「何処へ?どうやって?周りは海だぜ?」

フィアナがゆっくりと独り言を呟くようにしゃべる。

「救命艇……そうよ、救命艇があるはずだわ」

「うん……幸い島はもうすぐらしいから小船でも何とかなるかな?」

「乗員全員にわけ話して進路変更した方がいいんじゃねーか?」

二人ともハっとしたように声を漏らす。

「ああ……」

「そっか、そうだね」

「いい考えだ、問題は他の乗員に信じてもらえるか、だな」

正直これが一番の問題だ、よりによって進行方向にいる魚を、

普通の人間が現在視認出来ないのは二人が証明してくれている。

残りの乗員は全員人間だ、恐らく見えまい。

真夜中にいきなり、進行方向に船の倍以上の大きさの魚がいるから

今すぐ進路を変更してくれ。などと騒ぎ出す奴がいて、

オマケにいると示した方向には闇しかなかったら俺は、

幻覚を見たんだろ、と一笑に付す。

余りしつこいようなら安眠のために船蔵へ放り込むかもしれない。

同じように思ったのかフィアナも、

「そうね……どう説明したらいいかしら?」

「オルクの事は伏せてさ、何か適当な理由で変更してもらうってのは?」

「どんな理由だよ?」

「まだ思いつかないんだけどさ、出来れば迂回して港に行けるような。」

当然だがそんな会話中でも船は港とオルクへの最短ルートを進んで行く。

幸い怪魚はまだこちらに気付いてない、ずっと止まっているようだ。

もしかしたら寝ているのかもしれない。

逃げるなら今か。

「時間が無い、とにかく船長に事情を話して……

信用してもらうしかないだろう」

全員で頷いて、駆け出した。


 予想していたが、まるで取り合ってもらえない。

当然だとも思う。彼らには彼らの仕事がある。

こんなことは仕事を妨害する戯言にしか聞こえないだろう。

ただでさえ遅れている航海だ、

これ以上手間取るわけにもいかないのだろう。

後1時間もすれば全員に信用してもらえるだろうが、その頃にはもう遅い。

いや、もう既に遅いのかもしれない。

そう思うと気ばかりあせる。

そのせいで上手く説明出来ない。悪循環だ。

分かっているのに……

「しつこいぞ、他の乗客にも迷惑だろうが。いい加減にしてくれ」

初老の船長がうんざりだといわんばかりの仕草で喋る。

「もう何年もここらを航海しとるが、

そんなもんは見たことも聞いたこともないわい」

俺はうつむく、もう殆ど頭は回っていない。

「もう無理かな?」

呟くようにニールが聞いてきた。恐怖の表情。

どうやら奴にも見えるようになったようだ。

「恐らく、な」

やはり呟くように俺は答えた。

自分の声なのにどこか現実味のない声だった。

諦めたような会話をしている俺たちに船長が怒鳴る。

「解ったら、と――」

最後まで喋らせずカリンが尋ねる。

「なぁ、船長。ありゃあいくらだ?」

「……何が?」

フィアナが補足する。

「あそこの救命艇です。これで売っていただけません?」

ほぼ有り金を出したようだがメンバーは誰も何も言わなかった。

船長は少し沈黙した後、

「かまわんよ、好きに使うといい。何を――」

最後まで聞かずに俺たちは駆け出していた。





 「どうやらちったぁ信じる気になったらしいな」

救命艇に急ぎでかき集めた荷物と食糧を積んでいる時にカリンが呟いた。

俺たちが大金を出したことで半信半疑くらいにはなったらしく、

警戒体制が敷かれていた。

それが現実的な対応というやつだろう。

俺も船長の立場ならこんな対応だったに違いない。

そもそも俺たちは最悪の事態に備えて逃げ出しているわけだが、

そうならない可能性も十分ある。

だが……


 全員乗り込んで船を離れようとした時、

苦笑気味のフィアナが言った。

「これで何も起きなかったら最高のマヌケね、私たち。

その方がいいんだろうけど」

「ってーか、まだアタシらにはなんも見えねーしな。

正直まだ半信半疑だぜ。おっと、気ぃ悪くすんなよ?」

「いいからさ、早く出ようよ。早いとこアレから離れたい」

「……あぁ」

正直見えない二人が羨ましい。

恐らくニールもだろうが必死に吐き気を堪えていた。

船酔いの、ではない。

恐慌状態一歩手前の恐怖で吐き気を催しているのだ。

自分より、

圧倒的に格上の生物など見るもんじゃない。

少しでも早く逃れるために、俺とニールは精神を集中しだした……


風が、小船の周囲の風だけが、追い風となっていく。

波が、小船の周囲の波だけが、穏やかになっていく。



 大急ぎでオルクから離れようとする、

つまり、

島からも離れてしまうが致し方ない。

後ろを振り返ると、

波間を漂うだけだったオルクが虚ろな目をこちらへ向けた。

その目を、

見た時、

声にならない叫びが体内を巡った、

体が崩れる程の恐怖と共に。

数秒後、

我に返った時には魚の方は既に海中に潜っていた。

俺は全精神力を注いだ。風がその速度を増す。

想像以上に疲弊がある……

後10分くらいしか持つまい。

速度を上げる役割を男性陣が担当しているため、

操作は女性陣が行っていた。

どんどん上がる速度に疑問の声が上がる。

「おいおい、そんな無茶して大丈夫なんかよ?」

質問には答えず、思いを述べる。

「衝撃に備えておいてくれ、程なくあの船は破壊される」

これはただの「勘」だ。

過ぎないが、確信に近い。

あの怪魚が次に海上に姿を見せる時は、

船が海上から姿を消す時だと。

数分後、船が大分小さくなった頃にニールが叫んだ。

「来るよッ!!」

その刹那、轟音が響く。

振り返った時には、

巨体からは想像も出来ないほど身軽に跳ねたオルクが、

船体の真ん中に目掛けて、

大口を開け頭から突進していく瞬間だった。

船が、

バキバキと嫌な音を立てて、

海中に沈むまで、

ほんの数秒しかかからなかった……



 オルクが、

船を二つに分断しつつ、

再び海中へ潜っていく。

その尾びれを海面に叩きつける。

衝撃で船があった位置から大波が発生した。



 目に映っているのに、信じられない。

水面を叩いただけで、津波が起こるなんて。

「魔法」なのか?

恐るべき速さで俺たちのほうにも来る、

こんな小船ではひとたまりもないだろう。

フィアナが震える声を出す、

「ニ、ニール……ア……アレも相殺出来る?」

「無理、だよ……いくらなんでも……カリン?」

「あんだけの量だぞ?蒸発させれるわけねーだろがッ!!

アルツ、逃げ切れ……ねぇか」

「逃げ切るのは無理だろうが……」

「何?何かあるの?」

「あんなら早くしてくれッ、もう来るぞ!!!」

確かに迷う時間も選択肢もない。

俺は叫んだ。

「ニールッ!全速で津波の方へ方向転換してくれッ」

ニールは一瞬躊躇ったが頷いて波の向きを変え始めた。

「テメェら正気かッ!?」

「怒鳴る暇に舵を津波にきってくれ……、

津波を横滑りに登って、頂点で裏側へ跳ねて

無事に着水するよう努力する。くらいしか思いつかん」

「無茶よッ!」

「他に方法が思いつかない……フォローは任す……」

何か手があるなら飛びつきたい気分だ。

今までの消耗で既に嫌な汗が流れ始めている、

ただでさえ最後まで持つ自信がないというのに、

1歩間違えば即、死、それも全員が、だ。

その緊張が、

さらに消耗を加速する。

そのため無い自信がさらに減り、

緊張が増すという悪循環だ。

それはニールも同じだろう、

正直叫んで逃げ出したい。


 ニールの尽力の甲斐あって、

なんとか眼前に迫る津波に小船を乗せることに成功した。

頂点に向けて斜めに滑らせる、

波の反り返り部分で船が波から離れた瞬間、

気力を振り絞って船を最大加速させる、

それを最後に気力が尽きた。

視界が暗転し、

そのまま崩れ落ちる。


 意識を失う直前に感じた落下感が、

横薙ぎに叩きつけられるようなものではなく、

自然落下だったことで、

賭けには成功したと安堵しつつ……




 ……冷たい。

ハッとして目覚めるとそこは砂浜だった。

寝る前の状況を思い出そうとして、眠ったのではなく気絶したことと、

その原因を思い出した。

酷い疲労を感じつつ、漸く額に濡れタオルが当てられているのに気付く。

「助かった、のか……?」

呟くと同時に考える。

自分が無事という事は他の三人も無事と考えるべきか?

タオルを掴んで体を起こそうとすると声が飛んできた。

「やっと起きたかよ」

声の方に首を向けると、カリンがニールに濡れタオルを当てている所だった。

「どの位寝てた?」

「丸一日かな。ニールは一回起きてまた寝てる。フィアナは食料確保」

……やはり食料はダメになったか。

命があっただけでも奇跡だが。

「まぁ、目的の島には着けたから後は基地に合流するだけだけどな」

「どうやって!?」

「潜った後出てこなかったんで半日かけて大回り。結構気を使ったぜ?」

ただの気まぐれ……なのか……?

「なぁ、ありゃ一体何だったんだ?」

「……火山帯で僅かに目撃例がある幻獣だよ」

「なんでこんなトコに?火山なんざねぇだろ?」

「さぁな……だが入るも出るも不可能に近くなったのは間違いない」

「マジかよ……」

「最後の高波、アレが魔法だろう。その気なら島ごと沈めれると思う」

「陸に上げて干上がらせるってのは?」

「大気や生物から水分を吸収するそうだ、干乾びるくらい」

馬鹿げた話だが今なら信じられる。

「……どうしたもんなんだか」

「どうもしない、どうもできないからな」

「火山帯から観光に来てるって期待するしかねーってか、

この辺りのエサ食い尽くされちまうぞ」

「陸は発掘隊、海はオルク。この島の住民はついてないな」

発掘隊のキャンプは集落の中、

住民の家を接収して使っている。

元々住んでいた連中を追い出して。

「厄ネタ扱いだろうなぁ……」

「神話の手前、来訪者を歓迎する風習があるからな……

大いに裏目ったと言うべきか」

「信じるものの足すくってりゃ世話ねぇな」

「平和な島だったらしいからな……よそ者は無法者なんて知らなかったんだろう」

まぁ半端に抵抗して虐殺とならなかったのが幸いか。

「東西南北に集落してるのも神話か?」

「あぁ、中心の祠を神と見立てて四方を地水火風の精霊として祀っているらしい」

現在この島に発掘に来ているのも四国、

我々の国サラセニア、

その隣国ネペンテス、

上記二国と海を挟んだ国、セファロタス、

そしてそこの隣――

「アイツラとは揉めそうな話じゃねーの」

「強制的に改宗させているらしいな、善行のつもりだからタチが悪い」

「そんな狭量だから一人ぼっちの神様なんじゃねぇの」

「まぁ、勘当されたドラ息子ってとこだからな」

「そりゃタチが悪い」

優劣なんてないものにつけようとすると争いになるという見本になっていて、

現地ではトラブルが絶えないらしい。

「他の全てを疎かにしてまでの信仰が生きがいらしいからな」

「ご苦労なこった」

文化には口を出さない分、まだ残りの三国のがマシか。

まぁほんの僅かばかりだが。

「……まぁ、崇めたくなる気持ちも解らなくはないけどよ……」

空を仰いでカリンが呟く。

元は土着の多神教だったが、

太陽が総てを司るとする一神派が出てきた。

荒っぽいやり方で勢力を伸ばし出した所で指導者が暗殺され、

後を継いだNo2が信者と共に国外逃亡。

しかし当ての無い旅の中、No2も病死、

そこで散り散りになってくれれば可愛気もあったのだが、

現在は先述の四国目、ヘリアンフォラに入り込んで、

土着の宗教を取り込みつつ勢力を拡大中。

一時は弾圧もあったが最近はその偏執を政治的に利用する段階にある。

「それだけってのはなんか違うんじゃねぇの?」

そう思うのはお前が幸せな環境にいた証だな。

思ったが言わなかった。

母国から笑えるくらい安い値段で売り飛ばされて、

他国で家畜のような扱いを受けてきた連中も、

ソコに入れば等しく人間なのだ、太陽の名の下に。

だから――性質が悪い。

だから――関り合いになりたくない。

同じ境遇の連中が初めて受ける人間並みの扱い、

厳しい戒律など問題にならない、

それを絶対だと、正義だと思う事を、

誰が責めれるだろう。

その狂喜に満ちた信仰心を政治に利用する事を、

誰が不思議に思うだろう。

だから言えなかった、「そうだな」と。


 フィアナが戻ってきたので、

ニールを起こして食事となった。

食事を終えたら、ようやくの合流だ……



 補給物資も補充兵もほぼ海の藻屑、

残ったのはどこの馬の骨と知れぬ傭兵4人。

本部としては随分と思うところがあったようで、

素晴らしい待遇だった。

怪魚自体は認知されているのだが、

危険を事前に察知しながら貴族連中を救えなかった件をメインに、

色々と尋問された。

信じてもらえなかったんだから仕方ないのを信じてもらえない。

2時間ほど前に、

リーダーのニールがどこかに連れて行かれて以降この調子だ。

いい加減ウンザリしていた時、扉が開いた。

衛兵に続いて入ってきた二人、

愛想笑い全開の見知った顔はいいとして、

もう一人、

初対面だが、衣服の紋章は知っている……

ここの総大将だ……やり手と聞いているが……



 アッサリと俺たちは解放され、少し離れた小屋に通された。

窓にもたれかかるようにしているカリンが不機嫌そうに訊ねる。

「あの偉そうなん誰よ?」

椅子に座りながら答える。

「ココで一番偉い人間だ……フリクセル公、精霊の島探索部隊の将官」

備え付けのお茶を入れながらフィアナが疑問を口にする。

「なんでそんなやんごとなきお方と知り合いなのかしら……?」

本人に問い合わせたい所だったが、

『後で』

の一言で打ち切られてしまった。

「貴族だからじゃねぇの?」

「男・子爵級じゃ目通りすら叶わないくらいのお偉いさんなんだが」

「どのくらい偉いかも解らないくらい偉い人と知り合いな訳ね……」

出会いの時に家柄がよろしいのは知れたが、

どうやら予想よりかなりイイとこの生まれらしい。

しかし、では何故、

「なんでそんな奴が傭兵やってんだよ?」

「さぁね……育ちが悪いからじゃないか?」




 「カマでも掘られてたんかよ?ゲイは身を助くってな本当なんだな」

二時間後に帰ってきたニールにカリンが声をかける。

「それって褒めてんの?貶してんの?」

「茶化してんだよ」

笑いながらニールの分の茶を出しているフィアナ。

たまにコイツラの神経が羨ましい。

「で……突然私たちの言い分が通ったのは何故なのかしら?」

「ん……まぁ僕がウトリクラリア家の四男だから……ねぇ」

そういって家紋入りのペンダントをポケットから取り出す。

その紋章を見て軽く血の気が引いた、予想より遥かに……

怪訝な顔をしてカリンがたずねる。

「偉ぇんかよ?」

「それは、もう。」

肩を竦めながらそれだけ答えるニールに溜息をつきながら口を開く。

「三期ほど前の大臣を輩出した一族、財務関係ではかなりの顔」

「へぇぇ~、……なんで傭兵をしてるの?」

「魔力持ちだったからかな~、何分武勲の少ない家柄なんでね」

「ホントかよ、単に堅苦しいのヤだっただけじゃねぇの?」

「どうだろねぇ?」

「そろそろ今後の話が聞きたいんだが……」


 纏めると――

俺たちは今後、洞窟探索隊として行動するらしい。

たち、の中にはニールも変わらず入る。

どうやって公を説得したかは知らないし、

どういう狙いがあるかは解らないが――


 各国ともこの人員に困窮しているらしく、

現状、どの国も100人前後といったところらしい。

一応、争いに来たわけではなく探索が第一目的ではある。

だが大義名分を掲げて、拠点強奪を各国狙っているので、

拠点防衛に半分程度、怪我の治癒に四分の一程度取られている。

という訳で実質10~30人前後の能力者が探索に当たっている。

普通の人間を含めて各国1200人前後が現時点の残存兵力。


 島については――

島の人口は二万人程度、村落は四つ。

平均して5000人ずつといったところか。

単純な数では圧倒されているのだが……

長い間争いの無かった国と、今も争ってる国とでは、

悲しいかな、無かった側がヒドイ目に合う。


 東西に12~20km、南北に約50km伸びる。

中心部に洞窟、魔石と怪物はここに。


 探索隊の任務――

内部の地図作成と怪物の排撃。

マナの鉱床があると思われるのでそこの確保と、

そこから流れ出たマナが宿る魔石の確保。


 内部では法の真空地帯の為、他国の探索隊と出会った場合、

魔石の奪い合いになる事もままあるようだ。

死傷理由の大半は怪物との戦闘と能力者同士の戦闘。


 一つの隊で二班編成、

大きなトラブルがない限り、一週間程度探索し拠点に帰還。

情報を統合し、もう一つの班が探索に向かう。

俺たちは先日丸ごと行方不明(恐らく死亡)になった或る一斑の代わりに入る。

日取りはというと、

「いつから入る事になりそうなの?」

「明日帰還予定なんだって、今日はもう休んでいいそうな」


 二部屋空きのある家が当座の宿として割振られた。

「僕が上ね」

二段ベッドの位置取りの話らしい。

船のと違って柔らかくていいね、

などとのたまいながら跳ねてる奴を横目に明日の準備。

そのまま天井に頭でも打ち付けて気絶してくれれば、

朝まで静かでいいんだがな。


 それにしてもつくづく、貴族らしさの無い男だ。

就寝前に気になっていた事を聞いてみる。

「名乗りたがらないのは人間ではないからか?」

「まぁねぇ……家の領土は亜人と揉めてる地域もあるしね。

そこの領主の息子さんが半亜人でした、じゃマズイでしょ色々と」

「意外に苦労人だな……」

「かもねぇ、長男だったらとうに事故死してただろうね」

……なかなかいい生活環境だったようだが、

家を出るなら何も傭兵にならずに、

「僧院入りは考えなかったのか?」

「色とお金と刺激が好きだから無理」

コイツに対して僅かでも憐憫の情を抱いた俺が馬鹿だった。

「……高みの見物に回ったほうがいいんじゃないのか?」

「カリンに殴られたくないし……

いい思いしたいなら死ぬような思いもせんとね」



 現時点での洞窟内部の地図と状況の説明を受ける。


等間隔で灯りがあること、

地下への階段があること、

内部に風の流があること。


 現在の自然信仰とは違い人為的な洞窟であるらしい。

原理の調査も仕事の内、

資料になりそうなものを選定して持ち帰り、

基地にて調査する。


 地図の作成

地味だが一番重要な仕事。

人為的で面倒な作りになっているくせに、

内部から地図は発見されていないらしい。

地上部分は他国との兼ね合いも合って、

四分の一ほどしか埋まっていない。

地下二階はほぼ埋まっている。

三階から空白が目立つ。

予想以上に難航している事が解る。

他国との対立、

住民との軋轢、

怪物との戦闘、

そういったもので。


 班編成は大体3~6人一組の二組編成なのだが、

帰還した一組は二人組みの男女だった。

俺たちと同じ傭兵組、

軽く紹介し合う。

補充兵であることと名前を名乗る。

「あぁなんや道理で見いひん顔な訳やな」

訛りの強い男はストレリチアと名乗った、

女の方はリラというらしい。

「代わりおれへんねやったらしばらく警備に回れる思とったんやがなぁ。

ツイテへんな、まぁアンタら程やないが」

「泣いて感謝するトコだろ、稼ぐチャンス継続なんだからよ」

カリンが苦笑しながら応える。

魔石を発見したり、

他国の探索隊の情報を持ち帰ったり、

その他重要な発見があった場合は、

程度に応じて特別褒賞が出る。

そして傭兵は傭兵同士で組まされる。

とはいえその傭兵が俺たちを含めて4組しかいない上、

2組は療養中。

どちらかが欠ければ警備に回るという訳だ。

現在は比較的安全ではあるが、稼ぎも日当分のみになる。

尤も、

「出られるかも解らんのに稼いでどないすんねや」



 一週間分の水と食料を整えて初の探索へと向かう。

前衛に俺とカリン、後衛がニールとフィアナ。

道中、

不機嫌全開な顔のままカリンが話しかけてきた。

「なんつうか、扱い悪すぎねぇ?」

先日の上陸以来、真っ当な探索隊からは非常に受けが悪い。

恐らくはその事だろう。

だが無視や中傷程度で済んでいるのは寧ろ幸運だと思う。

無論、元大臣様の倅の力が大きい訳だが。

「元々この国は傭兵の扱いが軽いからな」

「毛虫みてぇな扱いじゃねぇか」

まぁ、丁度いい機会か。

「この島から無事に帰れたらどうする?」

「はぁ?……んな先の事考えてねぇよ……」

「実家は鍛冶屋だろ?戻らないのか?」

「……関係ねぇだろ?」

「傭兵は根無し草だからな、

報酬目当てに寄せ集まってるのが大半だ」

そのまま続ける――

「国や家族、そしてその中での自分、そういったものを守る為に

根を生やして戦ってる連中からすれば、そういうのは疎ましいだけだ。

中にはマトモな傭兵ってのもいるが――

そういうのは出世するか――

或いは死ぬか、だ。

残りの連中は酷いもんだ、まるで当てにならん。

ちょっとでも危険になればすぐに逃げ出す。

必死になって守る根を持ってないからな。

そういう訳でどこに行っても扱いは悪い」

「言いすぎじゃね?」

「今はまだ魔力持ちが珍しいからな」

「は?」

「だから近来稀に見る厚遇を受けている、

が、持ってない奴相手に威張れる今だけだ。

身の振り方を考えておいた方がいいぞ、

あと数年でまたガラリと扱いが変わるだろうからな。

残るのは肉体派の詐欺師くらいだ、場末の仕事だよ」

「……まぁ強けりゃそれでいいんだろ?

てかアンタはどうすんだよ?」

「俺か?俺は続けるよ。詐欺師で臆病者には天職だからな」

「なんか人間として間違ってね?あと傭兵に嫌な思い出でもあんのかよ」
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